片付けは、捨てることだけではない①
断捨離、こんまりメソッド、全捨離、ミニマリズム。
片付けの情報を見ていると、「捨てること」が大きなテーマとして出てきます。
では、なぜ捨てると気持ちがいいのでしょうか。
理由は、物が減るからだけではありません。
判断が減るからです。
1 選択過多 シーナ・アイエンガー/マーク・レッパー(2000年・アメリカ)
「選択過多」とは、選択肢が多すぎると、かえって選びにくくなるという考え方です。
物が多い部屋は、選択肢が多い部屋です。
どの服を着るか。
どの本を読むか。
どの書類を残すか。
どの道具を使うか。
物が多いほど、判断の入口が増えます。
片付けは、物を減らすだけではありません。
選択肢を減らし、判断の回数を減らす作業でもあります。
ただし、選択過多は「選択肢が多ければ必ず悪い」という単純な話ではありません。2010年のメタ分析では、選択過多の効果は条件によって変わるとされています。
これは現代にも通じます。
ネット検索、通販サイト、動画、SNSには、選択肢が無限にあります。便利ですが、選ぶだけで疲れることがあります。
デジタル時代だからこそ、選択過多はより身近な問題になっています。
2 認知負荷理論 ジョン・スウェラー(1988年・オーストラリア)
認知負荷理論では、人間の頭が一度に処理できる情報量には限りがあると考えます。
机の上に物が多い。
棚に物が詰まっている。
書類が積まれている。
画面にタブがいくつも開いている。
スマホに通知が来る。
これらはすべて、頭に小さな処理を求めます。
片付いた部屋に入るとほっとするのは、見た目がきれいだからだけではありません。
目に入る情報が減り、頭の負荷が下がるからです。
この理論は、デジタル時代にも十分生きています。
むしろ現代は、物理的な散らかりに加えて、デジタルの散らかりも増えています。
部屋の片付けだけでなく、画面、ファイル、写真、メール、ブックマークの整理も、認知負荷を下げる作業です。
3 保有効果 ダニエル・カーネマン/ジャック・ネッチ/リチャード・セイラー (1990年・北米の行動経済学)
保有効果とは、人が自分の物を、実際以上に高く評価しやすい傾向のことです。
買う前はそれほど必要ではなかった物でも、いったん自分の物になると手放しにくくなります。
まだ使える。
高かった。
思い出がある。
いつか使うかもしれない。
これは意志が弱いからではありません。
人間には、自分の物を手放すことに抵抗を感じやすい心理があります。
この理論も、今も十分に使えます。
しかもデジタル時代には、物だけでなく、データにも保有効果が起こります。
写真、PDF、メモ、スクリーンショット、メール、古いファイル。
実物ではないのに、なかなか消せません。
物の片付けと、データの片付けは、心理的にはよく似ています。
4 手書きノート効果 パム・ミューラー/ダニエル・オッペンハイマー(2014年・アメリカ)
ここで、何でも捨てればよいわけではない、という話になります。
特に、本やノートは別です。
学びに関わるものは、単なる物ではありません。
ミューラーとオッペンハイマーの研究は、「ペンはキーボードよりも強し」という題名で知られています。
この研究では、パソコンでノートを取る学生は、講義をそのまま写しやすい傾向がありました。
一方、手書きの学生は、書く速度が遅いため、内容を選び、要約し、自分の言葉に変える必要がありました。
つまり、手で書くことは、ただの記録ではありません。
考える作業です。
ただし、この研究も「手書きなら必ずよい」と断定する必要はありません。後の追試では、効果が小さい、または一貫しない面も示されています。
大切なのは、道具そのものではありません。
丸写しするなら、手書きでも浅くなります。
要約し、考え、自分の言葉にするなら、デジタルでも学びになります。
それでも、覚えたいこと、深く考えたいことは、紙に書く意味があります。
手で書くと、選ぶ、まとめる、言い換えるという作業が入りやすいからです。
まとめ
捨てることが気持ちいいのは、物が減るからだけではありません。
選択肢が減る。
判断が減る。
視界の情報が減る。
頭の負荷が減る。
だから、片付けると気持ちが軽くなります。
ただし、片付けの目的は、何でも捨てることではありません。
必要な物を見分けること。
今の自分に合う量を決めること。
考えるための物は残すこと。
探しやすい仕組みを作ること。
紙は考える場所。
デジタルは探す場所。
片付けは、物を減らす技術ではありません。
自分の生活に必要なものを、見分ける技術です。
次回は、物価が上がる時代に「捨てすぎること」のリスクと、「残す判断」について考えます。



