片付けは、捨てることだけではない②
片付けの情報を見ていると、「捨てる」ことを前面に出したものが本当に多くあります。
断捨離。
全捨離。
捨て活。
1000個捨てチャレンジ。
季節ごとの大掃除。
捨てれば運気が上がる。
金運がよくなる。
お金持ちになる。
動画だけでなく、本、講座、トーク、SNSの発信でも、「まず捨てる」「捨てると流れが変わる」というメッセージはよく見かけます。
たしかに、物が減る様子はわかりやすいものです。
ゴミ袋が増える。棚が空く。床が見える。部屋が変わる。
短い時間でも変化が伝わります。
「捨てる」は、目に見える変化をつくりやすいのです。
また、「捨てれば運気が上がる」という言葉には、気持ちを動かす力があります。停滞していた空間が動き出すと、気分も変わります。探し物が減り、判断が減り、行動しやすくなる。その結果として、生活や仕事の流れがよくなることはあると思います。
ただし、片付けの本質は、捨てることだけではありません。
むしろ今は、「何を残すか」が問われる時代になっていると思います。
物価が上がっています。
同じものを、同じ値段で買い直せるとは限りません。
ごみを出すにも、地域によっては指定袋や処理費用がかかります。
環境面でも、捨てる、買う、また捨てるという流れは見直されています。
つまり、今の片付けは少し複雑です。
一方には、すぐにすっきりしたい気持ちがあります。
もう一方には、買い直しにくい時代の不安があります。
だからこそ、片付けには「捨てる力」だけでなく、「残す判断」が必要になります。
1 プロスペクト理論 ダニエル・カーネマン/エイモス・トヴェルスキー(1979年・行動経済学)
プロスペクト理論では、人は利益よりも損失に強く反応すると考えます。
捨てたあとで必要になったらどうしよう。
また買うと高いかもしれない。
今は使っていないけれど、将来使うかもしれない。
こう考えると、物を捨てることは「損失」に感じられます。
これは単なる執着ではありません。生活を守ろうとする自然な反応でもあります。
ただし、損失を恐れすぎると、何も手放せなくなります。
反対に、すっきりする快感だけで捨てすぎると、必要なものまで失います。
片付けでは、損失への不安と、身軽さへの欲求の両方を見る必要があります。
2 オプション価値 経済学・環境経済学 1970年代以降
オプション価値とは、「今すぐ使わなくても、将来使える可能性」に価値を認める考え方です。
予備の道具。
保存容器。
布。
文房具。
工具。
資料。
本。
これらは、今すぐ使うものではないかもしれません。
けれど、将来必要になったとき、買い直さずにすむ価値があります。
もちろん、「いつか使うかも」は物が増える原因にもなります。
だからこそ、問いを立て直す必要があります。
これは、ただの不安で残しているのか。
それとも、生活の選択肢として残しているのか。
この違いが大切です。
3 希少性マインド センディル・ムライナサン/エルダー・シャフィール(2013年・行動経済学/心理学)
希少性マインドとは、お金・時間・物などが足りない状態になると、心の余裕や判断力が削られやすくなるという考え方です。
物価が上がる。
買い直しが高くなる。
生活用品も値上がりする。
ごみ袋にも費用がかかる。
こうなると、物を捨てる判断そのものが重くなります。
「捨てればすっきりする」と言われても、すぐに動けない人がいるのは当然です。
今の時代は、物を持つことにも、捨てることにも、コストがあるからです。
4 循環経済 サーキュラーエコノミー 近年の環境経済・資源循環
これからの片付けは、捨てるか残すかの二択だけでは足りません。
使い切る。
直す。
譲る。
売る。
別の用途に回す。
必要な人につなぐ。
物の行き先を考えることも、片付けの一部です。
片付けは、物を消す作業ではありません。
物の価値を見直し、次の置き場所を決める作業です。
まとめ
捨てることには力があります。
物が減ると、空間も頭の中も軽くなります。
けれど、今の時代に必要なのは、捨てることだけではありません。
何を手放すか。
何を残すか。
何を使い切るか。
何を回すか。
何を買い直さないで済ませるか。
片付けは、物を減らす競争ではありません。
自分の生活に必要なものを見分ける判断です。
捨てる片付けから、残す片付けへ。
インフレ時代の片付けには、身軽さと生活防衛の両方が必要なのだと思います。
次回は、本とノート、紙とデジタルの使い分けについて考えます。



