導入：2025年大河ドラマと現代の性風俗
今日は禁断の売春について切り込みたい。
2025年、NHK大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」では、江戸時代の吉原や性風俗を描くシーンが含まれている。遊郭での性描写が20時台に放送されており、毎回何らかの形で性描写が登場する。20時台は幅広い視聴者が見る時間帯であるため、性的表現の適切性が議論された。NHKは「時代背景を忠実に描くため」と説明している。
NHKの番組におけるLGBTQなどの少数派表現については、2024年の調査（NHK放送文化研究所）によると、ドラマやドキュメンタリーでのLGBTQ関連の登場人物やテーマが全体の約33%を占めた。一部の意見では、NHKが平均的な視聴者の価値観を反映せず、少数派の表現を過剰に取り上げているとされる。
NHKは「多様性を尊重する放送方針」と説明しているが、平均的な視聴者の価値観を反映した番組制作を求める声が存在する。偏向疑惑に関する具体的なデータは確認されていない。
福沢諭吉・近代化の影と「からゆきさん」
明治時代、日本は近代化を進めた。福沢諭吉は啓蒙思想家として知られ、文明開化や女性の教育向上を唱えた。しかし、海外で売春に従事する日本人女性、「からゆきさん」に関連する行動や発言が現代では批判の対象となっている。
「からゆきさん」は、主に九州の貧しい地域（島原、天草など）から東南アジアや欧米に送り出された女性たちを指す。その数は数十万人とも言われ、平均寿命は20歳程度とされる。現地で女性たちは風土病や性病による死亡することが多く、過酷な環境で働かされていたようだ。
村上華岳の『からゆきさん：海外に売られた女たち』（1972年、講談社）には、搾取に耐えきれず自殺する女性の記録が含まれている。吉村昭の小説『海も暮れきる』（1980年、新潮社）には、絶望して海に身を投げる「からゆきさん」の描写があるが、これはフィクションとして描かれたものである。
マレーシアのサンダカンでは、1900年代初頭に「からゆきさん」が多く送り出された。
歴史学者の山崎朋子によると、サンダカンで売春に従事した日本人女性は、1900年頃に約300人、1910年代には約500人に達したと推定される（『からゆきさん：日本女性の海外売春史』、1995年、岩波書店）。サンダカンは当時イギリス領北ボルネオの一部であり、ゴムや木材の貿易で栄えた地域であったが、売春宿での過酷な労働環境が記録されている。
「からゆきさん」となる背景は、主に貧困と家族による売却である。
貧困家庭が娘を売却し、借金返済や生活費に充てるケースが多かった。明治政府や三菱財閥（日本郵船）と協力し、「外貨獲得の手段」として女性を送り出したとする見解が存在する。一部の噂では、皇室や福沢諭吉が直接関与していたとする説もあるが、公式な史料による裏付けは見当たらなかった。
山崎朋子は、「こうした噂が広がること自体が、当時の社会がいかに不条理で、女性たちが搾取の中に置かれていたかを物語っている」と指摘している。
福沢諭吉は、「男子の性欲処理のため、娼館は必要」とする発言を行ったとされる（『福沢諭吉全集』第8巻、1960年、岩波書店）。この思想は、「良家の女性を守るために、貧困層の女性が売春に従事するのはやむを得ない」と解釈され、批判の対象となっている。福沢は「脱亜論」（1885年、時事新報）において、アジア諸国（特に朝鮮や中国）への差別的な見解を表明し、「文明国である日本は、アジアの後進国と距離を置くべき」と主張した。また、『婦人論』（1886年）には、「女性は男性に従属すべき」との記述があり、女性蔑視的な見解が含まれている。さらに、『文明論之概略』（1875年）で、「国家の発展のためには一部の犠牲はやむを得ない」とする功利主義的な立場を示しており、貧困層の搾取を間接的に容認する思想と解釈されることがある。
売春の歴史を遡る：中世キリシタン大名と奴隷貿易
売春の歴史をさらに遡ると、1582年に日本から4人の少年がローマ教皇に会うためにヨーロッパへ派遣された出来事に行き着く。天正遣欧少年使節として知られるこの使節は、キリスト教布教の一環として、キリシタン大名の大村純忠、有馬晴信、大友宗麟らが主導した。少年使節がローマで教皇グレゴリウス13世に謁見した1585年当時、ポルトガルやスペインの宣教師たちは日本で布教活動を行い、南蛮貿易を通じて武器や硝石を日本に供給していた。
この南蛮貿易の裏で、奴隷貿易が行われていた。16世紀後半から17世紀初頭にかけて、ポルトガル人やスペイン人の商人が日本人を奴隷として東南アジアやヨーロッパに売買していた。特に九州地方（現在の長崎や熊本）では、貧困層の女性や子供が対象となり、東南アジアのマカオやマニラ、インドやポルトガル本国で売春や労働に従事させられた。イエズス会士フランシスコ・カブラルの書簡（1570年）には、「日本のキリシタン大名が奴隷貿易に関与し、ポルトガル人に協力していた」との記述がある。
奴隷となる背景には、貧困、戦乱、誘拐があった。
貧困家庭が子供や女性を売却するケース、戦国期の戦乱で捕虜となった者が奴隷として売られるケース、ポルトガル人による誘拐が記録されている。
1571年、ポルトガル船が長崎からマカオへ向かう際、約200人の日本人（うち女性が半数以上）が奴隷として連行された記録が残されている。
大村純忠や有馬晴信は、布教の許可と引き換えに奴隷貿易を黙認していたとされ、宣教師との関係が深い大友宗麟も同様に関与が指摘されている。
歴史学者の岡本良一は、「キリシタン大名が南蛮貿易の利益を得るため、奴隷貿易を黙認する構造が存在した」と分析している（『戦国時代のキリスト教と奴隷貿易』、1998年、吉川弘文館）。
中世の「遊女」と「無縁」の世界
網野善彦の『無縁・公界・楽』（1987年、平凡社）は、中世における遊女や被差別層の役割を再評価した歴史研究である。
「無縁」とは、血縁・地縁・寺社勢力などの枠から自由な存在を指し、「公界」は聖域や治外法権的な空間（市や遊郭など）を、「楽」は非課税・免税の自由な場所を意味する。
網野は、遊女が単なる売春婦ではなく、経済、芸能、宗教の担い手であったと指摘する。鎌倉・室町期の遊女は、神仏への奉納の踊りや祭礼芸能を担い、売春行為が神事や通過儀礼と結びつく事例もあった。遊女となる背景には、貧困や戦乱による避難、家族からの売却があった。
売春は「支配された性」か、「選ばれた生」か？
売春を近代社会の搾取として捉える見方が一般的であるが、網野善彦は中世において遊女が「自由な生」を模索する存在であったと述べる。遊女は「無縁」の空間で、支配的な社会構造から離れた生活を送ることが可能であった。
一方で、山崎朋子のルポルタージュは、からゆきさんが貧困や搾取の犠牲者であったことを記録している。両者の視点は、売春が「支配された性」か「選ばれた生」かを問う歴史的議論を提示している。
現代に受け継がれる構造的暴力と無関心
2025年現在、海外で売春に従事する日本人女性が増加している。
主な地域として、東南アジア（タイ）、オーストラリア、中東（ドバイ）が挙げられる。2023年時点で、ワーキングホリデービザを利用してオーストラリアで売春に従事する日本人女性は推定5000人以上とされる（豪州警察）。海外売春の背景には、日本の経済停滞（2025年GDP成長率1.0%予測、IMF）、円安（1ドル150円前後）、若年層の貧困（20代女性の貧困率15%、2023年厚労省）がある。
海外売春に従事する背景は、経済的な困窮、誘拐、詐欺による強制連行である。NPO法人「風テラス」の2023年調査によると、60%が「生活苦や借金返済のため」と回答している。70%が「日本で低賃金しか仕事がない」「スキルがないため他の仕事ができない」と述べており、国内での経済的選択肢の少なさも一因にあるようだ。
リスクとして、暴力、性病、逮捕、精神的なダメージが報告されている。2024年、豪州NGOは「客から暴力を受けた」と訴える日本人女性が100件以上あったと報告している。精神的な影響として、「帰国後にうつ病を発症した」とする事例も確認されている。
2025年現在、日本で梅毒の感染が急増しているのはご存知だろうか。
厚生労働省によると、2024年の梅毒報告数は1万5000件を超え、過去20年間で最多となった。性風俗の利用増加が一因とされる。2022年の「日本性行動調査」（国立社会保障・人口問題研究所）によると、20～49歳の男性の約半数が生涯で性風俗を利用した経験があるという。
性病増加の背景には、性教育の不足も指摘されている。2023年の文部科学省調査では、性教育を受けた高校生の割合が60%にとどまり、性感染症予防に関する知識が不足しているようだ。また、海外売春に従事する日本人女性の帰国後の感染拡大も影響しているとされる。タイやドバイでの性病感染リスクが高く、帰国後の検査や治療が不十分なケースが報告されている。また、当然のことながら、インバウンドの影響もあるだろう。
日本では出生率が低下し（2024年TFR1.15、厚労省）、経済的・社会的な課題が深刻化している。中世キリシタン大名が関与した奴隷貿易、江戸期の遊郭制度、福沢諭吉の時代における「からゆきさん」、そして2025年の海外売春と性病流行。貧困や経済格差を利用した搾取の構造が、過去から現代まで続いている。現代社会においても、この構造に対する無関心が存在することは否めないだろう。
