今朝はじめて通して読んだ『仏説父母恩重経』

生き方・考え方
東西交流フォーラム

想像よりもずっと長い経典だった

今朝、『仏説父母恩重経』を通して読みました。
短い教訓文のようなものを想像していましたが、実際はかなりの分量がありました。

版本によって差はありますが、漢文体でおよそ二千~三千字程度、訓読付きで読めば四千字以上になります。声に出してゆっくり読めば十五分から二十分ほどはかかる長さです。

正直に言えば、途中でやめようかと思いました。
それでも最後まで読んでしまった。

ハッとさせられる箇所も何度もありました。それだけ引き込む構成を持っている経典だと感じました。

経の全体構成

全体は段階的に組み立てられています。

  1. 母の恩の具体的描写
  2. 父母の恩の総括的強調
  3. 報恩の実践命令
  4. 報いなかった場合の戒め
  5. 報恩した場合の功徳

とくに前半の母の恩の描写は細かい。

胎内十月の苦労。
出産の痛み。
三年の授乳。
夜ごとの世話。
自分は湿った所に寝て、子を乾いた所に寝かせるという表現まで出てきます。

抽象的な「感謝」ではなく、身体的な事実の積み重ねです。

その後に「父母の恩は山より高く、海より深い」と置かれる。
有名な一節は、具体例の後に出てくる総括です。


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出家在家の別なく求める立場

経を通読すると、出家であろうと在家であろうと区別していません。

仏教には本来、家を出て修行する出家の道があります。
家族関係から離れる道です。

それでもこの経は、出家したからといって親への恩が消えるとは言いません。
形式よりも恩の認識を優先する立場を取っています。

これは後代仏教が社会的批判に応答する中で、孝を強調した流れの中に位置づけられます。

現代の介護制度との緊張

ここで現代を考えます。

現在は介護制度が整備され、施設や専門職が存在します。
これは長寿化、核家族化、女性の就労拡大など社会構造の変化の結果です。

約四十年前、「これからは介護がビジネスになる」と語っていた人がいました。当時、私は強い違和感を覚えました。親を看るという行為が市場の対象になるという発想に、どこか整理できない感覚があったのです。

『父母恩重経』は制度の有無を前提にしません。
ただ「老い病めば看よ」と述べます。

両立可能かどうかという整理ではなく、
まず恩を見よという立場です。

古今東西に見られる「親への義務」

親への恩を重く見る思想は仏教だけではありません。

儒教の『孝経』は孝を社会秩序の基礎に置きました。
キリスト教の十戒には「父母を敬え」が含まれます。
イスラム教のクルアーンにも親への善行が明記されています。
古代ローマのピエタスも家族への義務を重視しました。

文化や宗教が異なっても、親への恩を道徳の中心に置く思想は広く存在します。

『仏説父母恩重経』は、そのテーマを仏教の因果観と結びつけ、体系的に展開した経典だと理解できます。

読み終えて

長い経でした。
途中でやめようかと思ったのも事実です。

それでも最後まで読んだということは、単なる道徳説教ではなかったということだと思います。

制度や時代を超えて、親という存在をどう位置づけるのか。
その根本に触れる経典でした。

今朝の読書は、軽くまとめられるものではありません。
しかし、読んだという事実は確かに残っています。

付記:この経典の成立について

『仏説父母恩重経』は、インドから伝わった翻訳経典ではなく、中国で編まれた経典と考えられています。編者は特定されていません。成立時期は明確ではありませんが、少なくとも唐代(9世紀以前)には広く流布していたことが、敦煌出土文書などから確認されています。

いわゆる「偽経」と分類されることがありますが、これは内容が偽物という意味ではなく、インド原典の翻訳ではないという学術上の区分です。実際には、中国・日本の仏教文化の中で強い影響力を持ち、親子倫理を説く経典として受け継がれてきました。

日本における類似の経典

日本にも、親の恩や報恩を強調する経典があります。代表的なのは『盂蘭盆経』で、亡き親を供養する物語を通して孝を説きます。現在のお盆行事の背景にもなっている経典です。

また、父母の恩を「十恩」として整理し説く系統(『父母恩重難報経』など)もあり、寺院の法話や民衆教化の中で広く用いられてきました。

つまり、『父母恩重経』だけが特別なのではなく、東アジア仏教全体の中で「親の恩をどう受け止めるか」というテーマが繰り返し語られてきたということになります。

東西交流フォーラム

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