最近、「この価格帯のPCはもう出せない」「次に買い替えるときは確実に高くなる」という話を耳にすることが増えた。半導体不足、円安、物流の問題といった説明はよく聞くが、それだけではどこか腑に落ちない。背景にあるのは、技術の問題というよりも、物質そのものの価値が静かに、しかし確実に変わり始めているという現実だ。PCは情報機器である以前に、レアアース、銅、金、リチウムなどから成る鉱物資源の集合体であり、どれか一つでも供給が滞れば価格は一気に跳ね上がる。とりわけ象徴的なのがレアアースで、これは曖昧な概念ではなく、周期表上で定義された17種類の元素を指す。この数は固定だが、どの元素が重要になるかは、時代と社会の要請によって大きく入れ替わる。
株価の動きを見ていると、この変化はすでに織り込まれ始めていることが分かる。技術力やアイデアよりも、「どの資源を押さえているか」「供給網を自前で持てるか」が企業評価を左右する場面が増えている。資源を持つ側は強く、外から買う側はコスト増と不安定さを抱え込む。PCメーカーも例外ではなく、価格に転嫁できなければ利益が削られる。この流れは企業だけの話ではない。ドナルド・トランプは2025年3月、重要鉱物の国内生産能力を強化する大統領令に署名し、レアアースだけでなく銅、ウラン、金、カリウム化合物などを対象に挙げた。これらはPCや半導体のみならず、戦闘機、潜水艦、ミサイル誘導、インフラ全般に直結する。国家はすでに、技術や理念ではなく、物質そのものを安全保障の中核として扱い始めている。
この視点から見ると、日本でかつて語られていたある言葉の意味も違って見えてくる。2011年前後、石原慎太郎は、「日本の足元に資源がある」「海の底を見ろ」と繰り返し発言していた。これは単なる政治的パフォーマンスではなく、同時期に南鳥島周辺の深海底で、レアアースを高濃度に含む海底泥が確認された事実と重なっている。南鳥島周辺の水深5,000〜6,000メートルには、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、イットリウムなどを含む泥が存在し、岩石を掘るのではなく泥そのものが資源になるという点で特徴的だ。現在は海洋研究開発機構などを中心に、調査、試験採取、環境評価が進められており、「すぐに儲かる」という話ではなく、国家が把握しておくべき物質的基盤として扱われている段階にある。
重要なのは、南鳥島が特別な場所だという話ではない。PCの価格が元に戻らない理由、株価が資源に敏感に反応する理由、国家が鉱物を囲い込み始めた理由――これらはすべて同じ構造の上にある。レアアースは17種類しかなく、その数は増えない。一方で需要は増え、国家は依存を嫌い、供給の主導権を握ろうとする。この条件がそろえば、価格が下がる理由はない。これはPCだけでなく、エネルギー設備、建設機械、そして社会全体の基盤に共通する現象だ。
私たちはしばしば、思想や制度、技術が世界を動かしていると考える。しかしその土台には、常に物質がある。どの元素が、どこにあり、誰の管理下にあるかによって、株価も価格も国家の選択も変わる。この構造は、人体にもよく似ている。身体を支えているのも、目立たないが欠かせないミネラルや元素であり、それらのバランスが崩れれば、全体がうまく機能しなくなる。世界も身体も、構造を支えているのは見えにくい物質だ。
こうした視点から、人体と鉱物の関係、ミネラルが果たしている役割についても整理していきたいと考えている。2月にはミネラルをテーマにした講義も予定しており、物質という切り口から身体を見直したい方は、そちらへのお問い合わせでも構わない。技術や情報の先にある「物質」をどう捉えるかで、世界の見え方は静かに、しかし確実に変わってくる。
人体とミネラルのつながりについて、もう少し学んでみたい方は、▶︎iidabashi.net



