夢と象徴Vol.10 言葉にならない夢の感覚――古い家と広い畳の夢

夢と象徴
BonaSpirit

今回は、ある男性から伺った夢です。

その方は、アイデアに富み、感性豊かで、多彩な人生経験を積まれてきた方です。穏やかで、どこかユーモアもあり、ふだんは「あまり夢を見ない」と話されていました。

ところがある日、

「昨日、変な夢を見てしまった」

とご連絡をいただきました。

お話を伺うと、その夢ははっきりした物語というより、目覚めたあとに「すっきりしない感覚」が残る夢だったようです。

古い家の夢

夢に出てきたのは、昔住んでいた古い家でした。

子どもの頃から四十歳くらいまで住んでいた家です。

現実には二階建てだったそうですが、夢の中では三階以上があるように感じられ、まだまだ上へ続いているような印象があったといいます。

家の中は、がらんとしていました。

だだっぴろい畳の空間があり、そこに独特の静けさがありました。

また、隣にあった床屋の息子が出てきたような気もする、とのことでした。

ただし、夢の中に自分自身がはっきり登場していたかどうかは、よくわからない。

けれども、「上に飛んだような感じ」があった。

空間の感覚や畳の印象は残っているのに、言葉にすると正確に伝えられない。

言葉にした瞬間に、どこか違ってしまう。

そういう夢だったそうです。

夢は、言葉になる前の感覚を運んでくる

夢には、はっきり説明できるものもあります。

誰かが出てきた。
何かが起きた。
怖かった。
うれしかった。

そういう夢は比較的、言葉にしやすいものです。

けれど、今回の夢のように、

「何かは残っている」
「でも、うまく言葉にできない」
「説明すると違ってしまう」

という夢もあります。

こういう夢は、とても大切です。

なぜなら、夢は必ずしも言葉で理解できる形で現れるとは限らないからです。

むしろ、言葉になる前の感覚、まだ整理されていない内面の動きが、空間や建物、人物、質感として現れることがあります。

古い家があらわすもの

夢に出てくる古い家は、その人の過去や記憶、人生の土台を象徴することがあります。

特に、子どもの頃から長く暮らした家であれば、その人の人格形成や家族関係、人生の原風景と深く結びついています。

今回の夢では、その家が現実よりも高く、三階以上あるように感じられたことが印象的でした。

これは、過去の記憶がそのまま出てきたというより、内面の中でその家が別の構造を持ち始めているようにも感じられます。

昔の家でありながら、まだ知らない階層がある。

かつての場所でありながら、上へ続いている。

そこには、過去を振り返るだけではない、何か新しい感覚が含まれているように思えます。

だだっぴろい畳の空間

畳の広い空間も印象的です。

畳は、日本人にとって、生活、家族、落ち着き、くつろぎ、原風景と結びつきやすいものです。

その空間が、家具もなく、がらんとしていて、だだっぴろい。

これは、空虚というよりも、何かが整理されたあとの余白のようにも感じられます。

何かを失ったあとの空間かもしれません。

あるいは、これから何かを迎える前の空間かもしれません。

夢の中の余白は、悪いものとは限りません。

むしろ、心の中に新しい余地ができたとき、夢は広い空間としてそれを見せることがあります。

床屋の息子という存在

隣にあった床屋の息子が出てきたようだ、という点も興味深いところです。

床屋は、髪を整える場所です。

髪を切る、整える、身なりを変える。

そう考えると、床屋という存在は、夢の中では「切り替え」や「整えること」と関係して現れることがあります。

ただし、今回は床屋そのものよりも、「床屋の息子がいたような気がする」という曖昧な出方をしています。

これは、はっきりした人物というより、過去の記憶の中にある誰か、あるいは当時の空気感のようなものが、夢の中に現れたのかもしれません。

夢に出てくる人物は、必ずしもその人自身を意味するとは限りません。

ときには、自分の中にある記憶の断片や、ある時代の感覚を運んでくることがあります。

すっきりしない夢にも意味がある

目覚めたあとに「すっきりしない」と感じる夢があります。

けれど、それは悪い夢とは限りません。

むしろ、まだ言葉にならないものが心の中で動いているとき、夢はすっきりしない感覚として残ることがあります。

今回の夢は、何かをはっきり告げる夢というより、

過去の場所。
広い空間。
上へ続く感覚。
言葉にできない印象。

そうしたものを通して、内面のどこかで整理や準備が進んでいることを示しているように感じられました。

夢は、すぐに答えを出さなくてもいい

夢を見たとき、すぐに意味を決めようとしなくても大丈夫です。

むしろ、

「なぜ、この家だったのか」
「なぜ、上へ続いていたのか」
「なぜ、畳の空間だったのか」
「なぜ、すっきりしなかったのか」

と、少し時間をおいて眺めてみることが大切です。

夢は、すぐに解く問題ではありません。

ときには、あとから意味がわかることもあります。

そのときにはわからなかった夢が、何日か、何か月か経ってから、

「あれはこのことだったのか」

と腑に落ちることがあります。

夢は、心の奥にあるものを、象徴という形でそっと見せてくれます。

言葉にできない夢ほど、実は大事な何かを含んでいるのかもしれません。

あなたは、どんな夢を見ましたか。

夢の印象が残っているときは、短いメモだけでも残してみてください。

そこから、自分でも気づいていなかった心の動きが見えてくることがあります。

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