夢と象徴Vol.10 言葉にならない感覚が、あなたの変化を告げている― ユング心理学でひもとく、心の地層 ―

夢と象徴
BonaSpirit

この夢は、アイデアに富み、感性豊かで多彩な人生経験を積まれてきた穏やかでユーモアがある男性によって語られたものです。あまり夢はみないと聞いていたのですが、「昨日、変な夢をみてしまった」とのご連絡を受けお時間をいただきました。

【夢の内容:ご本人の語りからのメモ】

  • よくわからない夢だった。
  • 目覚めたときに「すっきりしない」感じが残っていた。
  • 昔住んでいた「古い家」が出てきた(子どもの頃から40歳まで住んでいた)。
  • 隣にあった床屋の息子が出てきたようだ。
  • 家の構造は現実には2階建てだったが、夢では3階以上があるようで、まだまだ上の階があるように感じた。
  • 中はがらんとしていて、だだっぴろい畳の空間だった。
  • 登場人物として自分がそこにいたかどうかははっきりしないが、「上に飛んだような感じ」があった。
  • 空間の感覚や畳のイメージはあるが、言葉にしても正確に伝えられない。言葉にした瞬間に違ってしまうような感覚がある。
  • 起きてからもしばらく夢の印象を引きずっていた。

【夢分析:ユング心理学的アプローチによる解釈】

この夢は、「自己の内部構造」との対話を促す象徴的な夢と解釈できます。

■ 古い家・実家の登場

夢に出てくる「かつての住居」は、ユングにおいては自我と無意識の結びつきを象徴するとされます。特に子ども時代から40歳までを過ごした家は、個人の形成期と強く結びついており、「基礎となる人格構造」「記憶の深層」に関わる象徴として現れます。時間を重ねたなかでの自己の土台が、改めて夢の中で現れた可能性があります。

■ 2階建て→3階建て以上の建物になった感覚と「上に飛んだような感覚」

構造の変化は「自己発達の可能性」や「未知の階層の存在」を意味します。今回の夢では、もともと2階建てだった家が3階建て以上になっていたようなイメージという点に加え、「さらに上に続いているような感覚」や「上に飛んだような」印象が語られています。

この「飛んだような感じ」は、夢の中で本人が明確に登場人物として認識されていなくとも、視点として夢を見ていた、つまり“観察者”あるいは“空間に同調していた”ことを示しています。これは、心理的に“高次の視点”を一時的に獲得しているとも解釈でき、自己の構造を俯瞰するような夢体験であると見なせます。

この上方への感覚は、明確な成長や達成感とは異なり、「言葉では捉えられないが、なにかが動いている」「未定義の変化が始まっている」といった、潜在的な内面の動きを示唆しています。

■ だだっぴろい畳の空間

という日本家屋特有の要素が含まれていることは、「原風景」や「安心できる土台」を象徴しています。夢の中では、特に「だだっぴろい畳の空間」という表現が印象的に語られました。

これは、非常に広く開かれた静かな空間として現れており、現実にその家系が大きく立派な家であったことが、無意識のなかで空間的象徴として反映された可能性があります。このような空間は、「かつて存在していた構造が消えたあと」または「これから新たに何かを迎える前の余白」として意味づけられます。

そのため、この空間は不安や虚しさではなく、「内的準備の状態」や「心の余白」を象徴するものであり、夢全体の落ち着いた印象と一致しています。

■ 床屋の息子

現実に存在していた「隣の床屋」の記憶と、「その息子が出てきたようだ」という語り口は、夢における象徴の特徴をよく表しています。このように、夢に出てくる“他者”は、ユング心理学においてしばしば「自分自身の影」「未統合な人格の側面」「外界との関係性」を表すとされます。

この場合、床屋の息子という存在は、「かつて確かにいた記憶の断片」でありながら、「その人の顔は語られていない」という不確かさが、象徴性を強めています。これは、「過去との接点を持った誰か」「自分にとって役割的な意味を持つ存在」が、夢を通じて登場したと解釈できます。

さらに、夢において床屋が登場すること自体が、「何かを整える」「切り替えの準備」といった象徴と結びつきます。床屋という空間は、外見を整えるだけでなく、「変化に備えて身なりを整える場所」として、夢に現れたとも考えられます。新しい生活が始まるような感覚と共鳴しており、心理的には「節目」を表す象徴として浮かび上がったとも言えるでしょう。

■ 言葉にできない感覚

この夢の核心には、「言葉にしようとしても違ってしまう」「言葉にできないような感覚」という体験があります。これは非常にユング的なテーマであり、無意識が象徴的に働いている典型的なパターンです。

本人の深層心理が、「言葉による理解」を超えたレベルで何かを感じ取っており、それが象徴(家、階層、空間、人物)というイメージを通じて表現されていると考えられます。


【まとめと方向性】

この夢は、明確なメッセージを伝えるというよりも、「今の心の構造や準備状態」を静かに映し出すものであり、以下のような心理的要素が感じ取れます:

  • 過去との距離感や再評価
  • 心の中の空白と、その空間の意味
  • 上へと続くイメージが象徴する、まだ気づかれていない可能性

夢は自己処理や統合の場であり、この夢を通じて、本人の内的な世界では何かの「準備」「整理」が進行中であると見なすことができます。

決して悲観的な夢ではなく、「まだ解き明かされていない部分がある」「自分の内面の構造が動いている」といった“内的探求のプロセス”として受け取ることができます。


あなたはどんな夢をみましたか。
夢分析してみませんか。ご連絡をお待ちしております。

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